現代社会における有機合成化学の使命として、環境に負荷をかけず物質変換効率を向上させるとともに、エネルギー問題を解決する高効率機能性物質を創製することが強く求められている。また、世界を脅威にさらす感染症や重篤な疾患に対して、即時に高感度で検出し治療する革新的な医療、診断分子や薬剤を迅速かつ効率的に創製することが切望されている。現在まで、機能性分子や薬理活性分子を創製する上での有機合成化学分野からの“ものづくり戦略”として、専ら基本分子構造に対して化学変換と最適化が行われてきた。しかし、実際にはほんのわずかに限定された有機合成反応のみが“ものづくり戦略”に用いられており、日々進化する最新合成反応が機能分子創製における主体的な起爆剤として捉えられていないのが現状である。現代科学が抱える問題解決において、有機合成反応の真の有用性と社会還元への貢献の可能性が理解されずに見過ごされてきたケースが非常に多いと言えよう。そこで、真に効率的な有機合成反応の開発を“研究の起点”に据え置き、機能性分子から医療診断分子の創製に到るまで領域内外の多方面研究領域にその方法と適用範囲、および技術情報を発信して、画期的な“次世代ものづくり戦略”を総合的に展開することを本研究グループ設置の目的とする。
本グループの各メンバーは、これまで独自に効率的有機合成反応の開発に携わり、各自積極的に機能性物質の創製、生理活性天然物や生体高分子の合成、あるいは天然物を基盤とする薬剤や診断薬の開発へと展開してきた。本新領域では、続けて各メンバー独自の有機合成反応を開拓するとともに、“ものづくり”の視点から従来の有機合成反応を再度開花、進化させ、さらにこれらを領域内で共有することによって
(1)高効率エネルギー変換機能性材料、
(2)生理活性天然有機化合物と機能付加超天然物、
(3)均一構造タンパク質製剤、
(4)疾患診断人工細胞および
(5)生体内機能解析分子の創製
を中心とした“ものづくり戦略”を展開する。